大晦日、歌番組の途中まで付き合ってくれて娘は帰って行き、新年三3日には改めて家族で
お年賀に来てくれた。娘が節料理を食べながら意外な事を口にした。
「お母さんのお節は私のトラウマでも有るの...作らなきゃ作らなきゃって思うと年末はおちおち
していられないもの...」予期せぬ言葉だった。結婚した年、重箱を買いたいから付き合って
くれないかと言われ、約束したデパートで2人で見立て、小ぶりでシンプルな黒漆の三段重を購入した。
舅姑と暮らしているが自分の重箱が欲しいのだという。娘婿は家業を継いでいたが、娘は結婚以前
からの仕事を続けていて、年末年始は余裕の休日があり、お節を作ると言うのだった。元日にはメールと
共に節料理の写真が送られてきたが、私の古風なお節に洋風もあしらった若々しい節料理に「やるじゃ
ないのっ!」と思ったものだった。
その後、家業の事務処理を姑から受け継ぎ、会計士に委託する部分もあるが仕事量も多く、殊に
年の瀬は多忙なようだ。そんなとき「お節を」と思うと私の顔が浮かび、おちおちしていられないと
言うのだ。「お母さんは既製品を買うのは罪悪のように思っているだろうけれど、デパートの地下は
働く女性の強い味方なのよッ!今更言っても始まらないけど...」「あらっ、私は滅多に既製は
買わないけど他人様の買う既製品に文句を言ったことなんか無いわっ!」「口じゃ言わないけど
既成のおかずを買うのは罪悪のように私は育ったような気がするのよ、いまでも」「まあっ、そうでしたか
それは悪ろうございましたこと...」「ううん、いいんだけどね、専業主婦の欠点だなあって...
働く女性に対する理解度が足りないのよ、子育ても、家事も男が参入するのが当たり前なんだもの」
どうやらあの日のことが今も尾を引いているらしい。
あの日、幼稚園の年長になった双子の男児と2歳に満たない女児を連れて婿が我が家にやって来た。
「お母さんはっ?」「お母さんはいないんだよっ!」口を揃えて2人の男児は言った。「...?」
婿に理由を聞くと「結婚記念日に何か欲しいものがあるか聞いたんですよ、そうしたら1日休日が
欲しいって言うもんですから...」聞けば娘はデパートで買い物をしていると言う。婿から理由を
知った私は怒り心頭に発する!夫も同じであった。3人の子どもと公園で遊んでいたが、にっちも
さっもゆかず我が家に応援を求めに来たのだった。悪いのは娘に決まっているが受け入れた婿にも
腹が立った。「タケさん、ダメじゃないか!今から尻にしかれちゃ、どこのデパート?」夫が言った。
娘は市内の大手のデパートにいるらしい、呼び出しをお願いし、私は怒りを抑えて夕飯を我が家で
することに漕ぎつけた。
賑やかに食事を済ませた後、1日と言えども「子育てを放棄」した娘に私も夫も詰問と非難を浴びせた。
今にして思うことだが、極小未熟児で生まれた男児2人、1人は無念にも網膜剥離、5歳違いの女児と
3人の子育てをしていた娘が「たった1日の休日」が欲しかったことは理解に容易だが、だからと言って
あの日の娘の味方にはなれなかった夫と私...襁褓をしていた女児は中学生に、極小未熟児だった
男児2人は大学生になって...そんな想い出を手繰りながらお節の残りと味噌汁でいつもの粗食となった。

明日は七草粥、風の出ないうちに家の周りを一巡し、芹、薺、御形、蘩蔞、仏座など毎年摘む田の畔で。
瑞々しい蘩蔞と芹、仏座と薺は既に花を持っていた。

御行は庭の草取の折に残しておいたものが、いい具合に育った。

最初に薺と御形を茹で、次に芹と繁縷、灰汁の強い仏座を最後に茹でて、菘と蘿蔔に小さく切った
餅を加えれば「七草粥」のできあがり。これだけあれば7日以後の粥に入れてしばらく楽しめる。

泉下に暮す夫殿へ
その後お元気でお暮らしでしょうか。お正月、新型コロナ禍でA家族は来ることが出来ません
でしたがMは大晦日と3日に来てくれて、いつものお節を楽しみました。RもKも学業は順調の
ようです。Sは「Tじいじに数学を教えてもらいたかった」と言っていました。明日は七草ですが
そちらではどおでしょう、頂くことが出来ますでしょうか?今でもあなたが居た時と同じように
お夕飯に七草粥を食べるようにしていますので、そちらで頂くことが出来ない様でしたら午後5時
お粥を整えてお待ちしています。是非お越しください。予報では明日は例年にない寒波の襲来と
言っておりますので最善の防寒をなさいましてお越しくださいませ。お待ちしています。
黄泉のことなど伝へ来よ薺粥 ふきのとう